原発早期復旧に怠れぬ現場の安全確保

 

 

 福島第1原子力発電所の事故を世界の人々が注視し、一刻も早く危機的状況から抜け出すことを願っている。現場の人々の使命感は強く、作業を急ごうとする焦りもあろう。しかし、作業が拙速だと人命にかかわり、復旧をかえって遅らせる。着実な作業の前進には現場の安全確保が重要であることを、東京電力などの責任者は肝に銘じるべきだ。

 

 同原発3号機で24日、作業中の3人が放射線に被曝(ひばく)し入院した。現場の地下室の水たまりに踏み込み、2人が放射性物質を含む水で足をぬらした。1人は長靴を履いていたが、2人は履いておらず放射線によるやけどの疑いがある。

 

 携帯した放射線量計の警告音が鳴ったが、すぐに退避せず、放射線を測る専任の管理者も現場にいなかったという。この事故の影響で復旧作業に遅れが生じた。やけどの2人は命にかかわる症状ではないとされるが、こうした事故は慎重に作業を進めていれば避けられたはずだ。

 

 原子力安全・保安院は東電に安全管理態勢の見直しを指示し、東電は放射線管理者が必ず作業に同行するなど安全確保の態勢を強めたうえで作業を再開している。

 

 福島第1では、東電と協力会社の社員だけでも700人以上が働いているという。なかには地震発生からほとんど不眠不休で現場にとどまっている人もいると聞く。原発での作業に不慣れな人もいるだろう。

 

 準備不足や過労のせいで作業員の生命や健康にかかわる事故が起きることを、何としても避けねばならない。早急な復旧が求められる緊急事態ではあるが、足元の安全がおろそかになってしまうと、復旧作業全体の遅れにもつながる。

 

 3人が被曝した水は、原子炉内に通常ある冷却水の約1万倍の放射性物質を含む。原子炉内で部分的に溶融した核燃料棒に触れた水が外部に漏れている恐れがある。保安院は「1、2号機でも放射性物質が漏れている可能性」を指摘している。

 

 原発には外部電源が引き込まれ、本来備えている冷却ポンプを修理・交換し動かす作業に着手する段階を迎えた。だが、ここへきて、建物内の強い放射線が妨げになり、復旧作業は大きな困難に直面している。綱渡りの復旧は長引きそうだ。

 

 東電や協力会社はすでに多数の技術者を現地に派遣し、応援体制を組んでいる。復旧作業の長期化を視野に入れ、できる限り手厚く人員や装備を送り込み、現場で働く人たちの安全や健康に十分配慮しながら、復旧を急いでほしい。

 

 

 (C)日本経済新聞 2011年3月26日